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技術計算講座

第2回「厚肉の接続と展開について(1) "厚肉と薄肉の違い"」

掲載日:2014年8月6日

はじめに

前回のテーマ「中立面と曲げ係数」では板厚が厚い、所謂「厚肉」の板を使った展開図の場合、 板厚中心の展開図では誤差が生じるというお話しをしましたが、 しかし、この厚肉の場合、さらに「相手部品との接続をどのようにするかと」いうことも考慮して展開図を計算しなければなりません。

これはどういうことかといいますと、作成した展開図から板取りをしてロール加工等で丸めて製品にするわけですが、単品で完成するものはほとんどなく、同じような製品を接続していきダクトや機械装置に使われる場合が通常です。 厚肉の場合、この「接続する」ことを考慮しないで展開図を計算してしまうと加工後の製品寸法に誤差が生じてしまいます。 つまり、板金展開におけるより実践的な知識を習得するにはこの理解が不可欠といえます。

そこで、今回から複数回に渡り「厚肉の接続と展開について」というテーマで、厚肉の場合の接続を考慮した展開図の考え方をお話させていただこうと考えております。 ここからが本編開始です。

厚肉と薄肉の違い

さて、先ほどから「厚肉」「薄肉」といっていますが、板金展開では具体的に板厚何mmで区別されるのでしょうか? ここも前回のテーマ「中立面と曲げ係数」からのおさらいですが、板厚が厚く、曲げRが小さいもので、 中立面が板厚中心から曲げRの内側に寄って曲げ係数が0.5より小さくなるものを厚肉としています。 逆に薄肉は中立面が板厚中心になるもの、つまり「曲げ係数=0.5」としています。

したがって、厚肉と薄肉は板厚が何mmを境に区別されるものではなく曲げRや曲げ角度などを含めた判断になります。 今回は初回ということで、同じ展開図を使った製品を薄肉の場合、厚肉の場合で比較し、厚肉時における問題点・考慮すべき点を解説していきます。 次回以降で具体的な考え方等を解説しますが、それを理解する上でもまず「何が問題なのか」を抑えておく必要があります。

例えば次に示すように2つの同じ薄肉の円筒斜切断の製品を斜面同士で接続して二片エルボを作ってみたとしましょう。

二片エルボの図(薄肉の場合)

薄肉の場合はハンダ付け、ロー付け等で接続すれば二片エルボは完成です。 薄肉の溶接は難しいですがステンレスの0.5mm厚でTIG溶接を使えば十分可能でしょう。 では前述の薄肉の円筒斜切断と同じ展開図を使って厚肉の二片エルボを作ったらどうなるでしょうか? ここで極端な例として板厚を20mmとしてみますが便宜上、曲げ係数は0.5として先の薄肉の二片エルボと中立面上の寸法は同じとします。

二片エルボの図(薄肉の場合)

ここで接続面を詳しく見てみるとエルボの内側(エルボの曲がりの中心側)では円筒の外側が点接触し、 エルボの外側では円筒の内側が同じく点接触しているのが分かります。また接触点以外は隙間ができています。 ではこれに先ほどの薄肉の二片エルボを重ねてみましょう。赤い線が薄肉です。

二片エルボの図(薄肉と厚肉を重ねた場合)

厚肉の場合は接触点がいずれも薄肉の場合の接続面より離れているため、中立面を基準として接続した薄肉の二片エルボとは出口寸法なども違ってきてしまいます。

したがって、厚肉の場合に薄肉の二片エルボと出口寸法と合わせるためには展開図を修正したり接続面を加工したりする必要があります。 このような展開図の修正や後加工が必要なものも厚肉に分類されると考えられます。 例えば、実際に使う板厚が薄い部類に入ると思っても、仕上がり寸法が厳密で精度が要求される場合は厚肉の考え方で展開・加工しなければなりません。

以上のように、薄肉となるのか厚肉になるのかは単に板厚と曲げRだけの関係ではなく接続方法や求められる仕上がり寸法の精度などを考慮した総合的な判断が重要です。 これらを事前に検討して最適な展開方法を選んでおけば後加工の工数を減らして効率的な作業ができると思います。

(2)へ続く

Check!@CADTOOL板金展開

CADTOOL板金展開では、「厚肉板金展開図コマンド」という形で、全コマンドのうち、以下の図にある10種類の展開図については厚肉時に考慮すべき点を細かく設定できるようになっています。

厚肉板金展開図コマンド

厚肉の場合は曲げ係数や接続方法の対応などのため複雑な展開図に対応するのは難しく、薄肉の標準板金展開図コマンドに比べて数が少ないですが、 厚肉での使用頻度の高いものを採用しています。